夢見るタイフーン〜トキ子さんの不思議な旅〜 平成24年7月7日・8日

第8回公演
夢か現か、平凡な日常を侵食する社会の悪とふつーのおばさんが対決するスリルとサスペンス
失った愛は取り戻せるのか!


〜公演に寄せて〜

世の中、理不尽なことが多い。人生は、道理に合わない出来事に出会うたびに、歯噛みをしながら乗り越える「旅」だと言えるかも知れない。

オウム真理教最後の指名手配犯、高橋克也が逮捕された。このお芝居には新興宗教めいた怪しい教団が登場する。もちろん本筋は、熟年離婚をして自分探しをする主婦が、危うい事件に巻き込まれ、日常の大事さを知るというもので、宗教団体そのものの検証ではない。しかし、オウムをリアルタイムで知っている私の中には、国家転覆を目論む悪=オウムという図式がずっとあった。脚本を書いているちょうどその頃、偶然にも、同じオウムの平田信が出頭した。それまで風化したかのように見えたオウム事件が一気に動き出した。25年前、東京で舞台照明の会社に入った私は、ある日、不可思議な新興宗教の集会に立ち会った。それがオウムを目撃した最初だった。幼稚な象のぬいぐるみを頭にかぶった信者たちが、髭もじゃの教祖麻原をソファごと担ぎ上げ、奇妙な歌を繰り返し歌っていた。思わず吹き出しそうになった私を会社の先輩が制し、「気をつけろ」と耳打ちされたのを覚えている。ちょうどオウムが神仙の会から真理教に改名した時期である。ある夜の仕事帰り、偶然通りかかった集会所の玄関に、おびただしい数の靴が並んでいた。異様な空気を感じて覗くとオウム真理教の看板。何足もの小さな子供の靴が印象に残っている。誰もが、そして警察でさえも、こんなバカバカしい集団が、凶悪犯罪を計画しているとは思いもよらなかったのだ。苦しんでいたのは、娘や息子を引き込まれた信者の家族だった。その空を掴むような抗議の虚しさはいくばくだったろう。バブル全盛期、何でも金で動くと錯覚された時代だった。歯車にはなりたくない、本当の自分は?と迷っていたまじめで普通の人々を、巧みな罠は見逃さなかった。たった一人のわがままな妄想が理不尽な犯行を生み、多くの人生を狂わせた。しかし、本当の闇は、我々が知るよりもっと深いに違いない。

オウムの事件が物語るように、我々は弱く、そしてもろい。しかし、理不尽に打ち勝つ術を持ち合わせてもいる。蟻たちは水に落ちた時、互いに手をつなぎ合って船を作る。人生は一人きりの旅ではない。今日この会場にお越しくださった皆様と、人生のひとときをご一緒できますことをありがたく思い、多くのご協力を深く感謝いたします。


INFORMATION.htmlへのリンク

typhoon.htmlへのリンク